文学批評
 『コンセント』

カバナス・セイジン
(2001.12)
 

 そういえば、田口ランディのことを「ちゃんと勉強する吉本ばなな」と言っていた人がいた。たしかに。当たらずしも遠からず。精神医学から、適切にネタをひっぱってきてストーリーを組みたて、「現代の心の奥底」みたいなことを語る。そこに一種の超常的な現象を持ってくる。きわめて手際よく、わかりやすく。吉本ばななと違うのは、オカルトを持ちこんでも、それが過度に神秘化されることがないところだろう。けっこうクールでドライな態度。無駄に心情を持ちこんだり、センチメンタルになったりしないところが良い。納得できる、よく出来た作品。

 しかし、けれども。と、ここになにか文句をつけたくなってしまうのは、ひねくれた根性の故。でも少なくとも、こう問うことはできる。納得できてしまっていいのか、と。つまり、こんなふうによく出来ていていいのだろうかという疑問…というか不安。他者の病理を理解し、腑に落ちてしまうことに、なにかとてつもない嘘は含まれてはいないか?

 病理を内側から描く…。そういうスローガンが、実際には、安易で退屈な曖昧模糊とした一人称のグチに堕すことは多い。それに対し、『コンセント』が持つ説得力は、はるかに明晰でよどみがない。そのこと自体はすばらしい。現代を描くことにおいて過不足はない。

けれどもそれは、まるでよく出来たルポルタージュやノンフィクションのようでもある。ここには現状の把握があり、それから正確なコメントがある。読まれるべき作品である。けれど、読まれた後に忘れ去られる作品なのかもしれない。

『コンセント』

田口ランディ著

Page 2
back to contents top