書評  
『物語の体操 みるみる小説が書ける6つのレッスン』
タマガワヒロ
(2000.11)
 
この本は、副題からわかるように、小説を書くためのマニュアルです。ただ、マニュアルといっても、よくある文書作法を述べた一般的な文章の書き方入門書とは違って、小説、それも著者が得意としているエンターテイメント系の小説、シナリオの話の作り方についての練習方法が語られています*。その練習方法も、わかりやすく実践的で大変参考になるとは思いますが、この本には、もう一つの側面があります。それは、文学批評としての側面です。
 著者は、小説の書き方について説明していく中で、プロップの31の機能やグレマスの行為者モデルといった理論などについても触れています。が、そういった過去の文学理論の解説が優れているというわけではありません(もちろん小説を書く上でそういった文学理論を知っていることに超したことはないでしょうが・・・)。彼は、練習の教材として、村上龍やつげ義春を使います。それ以外にも、吉本ばなな等の「文学」に属する小説を多く取り上げています。ここで、確認しておきたいと思いますが、あくまでこの本は、純文学を書くためではなく、電撃大賞やスニーカー大賞を取るためのものです(笑)。つまり、エンターテイメント小説を書くための教材として、著者は、「文学」を参照するのです。彼は、そうすることによって、「文学」とエンターテイメント小説を比較し論じていきます。それも、あくまでマニュアル本としての観点から書かれているので、書く側からの視点で書かれ、非常にわかりやすいものとなっています。
 それも、著者大塚英志は、マンガ編集者、原作者であり、そして、マンガから文学まであつかう評論家でもあります。話題は、純文学、J文学といったお堅いところから、主題のエンターテイメント系の小説やマンガ、果ては、同人誌まで広がります。現役で業界の中心にいる著者が、オタクカルチャーを広く扱っており、非常に優れた文化評論となっています。もちろん物語の本であり、(オタクカルチャーには欠かせない)絵にはほとんど触れられてはいないのですが、その分析は、これまでの(なにかと精神分析を持ち出したりするような)オタク評論とは、一線を画すものです。

『物語の体操 みるみる小説が書ける6つのレッスン』大塚英志著 朝日新聞社2000.12


*著者大塚英志は、漫画ブリッコの編集者をへて、マンガ評論、『多重人格サイコ』などのマンガ、ゲームの原作者としても知られる。
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